主な登場人物・キャスト
| キャラクター名 | 演者 | 役どころ |
|---|---|---|
| Tricia(トリシア) | Courtney Bell | 物語の中心人物。7年前に夫が失踪しており、妊娠中。失踪した夫を「不在による死亡」として法的に処理しようとする矢先、怪異と向き合うことになる。悲嘆と現実的選択の間で揺れる。 |
| Callie(キャリー) | Katie Parker | トリシアの妹。薬物依存からの回復中で、姉を支えるため戻ってくる。近所の歩行者トンネルに不穏な気配を感じ、独自に調査を進める。トンネルの真相に最も深く関わる人物。 |
| Daniel(ダニエル) | Morgan Peter Brown | トリシアの夫。7年前に突然失踪し、作中で血まみれの姿で突如帰還する。彼の体験は曖昧な言葉で語られるが、トンネルの“向こう側”を示唆する鍵となる。 |
| Detective Ryan Mallory(ライアン・マロリー刑事) | Dave Levine | ダニエルの失踪を長年追ってきた刑事。トリシアを気遣い、恋愛的な感情も抱く。事件の論理的側面を代表する存在だが、超常的な事実の前では限界を見せる。 |
| Detective Lonergan(ロナーガン刑事) | Justin Gordon | マロリーの相棒。現場主義で、事件を現実的に捉えようとする。捜査線上でトンネル周辺の人物にも目を向ける。 |
| Walter Lambert(ウォルター・ランバート) | Doug Jones | トンネルで横たわっていた痩せこけた中年男性。かつての行方不明者の一人で、怯えた様子でキャリーに助けを求める。トンネルの“向こう側”を知る重要な存在であり、物語序盤で異常性を印象付ける。 |
| Jamie Lambert(ジェイミー・ランバート) | Jamie(James) Flanagan | ウォルターの息子。近隣住民からは怪しまれており、動物の失踪などで警察の注目を受ける。父の失踪・怪異との関係をにおわせる人物で、トンネル事件の背景に深く関わる。 |
あらすじ(ネタバレ含む)
起
住宅街の一角に、高架下の四角い歩道トンネルがあるアメリカのとある場所。その周辺では、住民やペットの失踪事件が相次いで発生していた。
その街に住む妊娠中のトリシアは、7年前に失踪した夫ダニエルを「不在(in absentia)」によって死亡したものと、法的に認定する手続きを進めようとしていた。
そこへ、6年前に家を出て放浪生活を送っていた元薬物中毒の妹キャリーが、姉トリシアの妊娠を知り戻ってくる。
キャリーは、産まれてくる子供へのプレゼントにと、ぬいぐるみと絵本『三びきのやぎのがらがらどん』を持参していた。
こうして、キャリーはトリシアと一緒に暮らし始める。
『三びきのやぎのがらがらどん』とは
ノルウェーの民話を基にした絵本。
3匹のヤギの兄弟が、餌を求めて橋を渡る際に谷川の底に住む恐ろしい「トロル」に遭遇する物語。
トロルが「オレの橋を勝手に渡るやつは食ってやる」と言うと、小さなヤギは「自分より身体の大きい兄が来るので、そっちの方が食い出がありますよ」と誤魔化して逃れる。中くらいのヤギも同様に逃れ、最後に現れた一番大きなヤギ「がらがらどん」が、持ち前の力でトロルを倒し、谷川に突き落として殺すという話。
キャリーはジョギングを日課にしていた。翌朝のジョギングの帰り道、彼女は高架下の歩道トンネル内で、死体めいて地面に寝転がる痩せこけた男と出会う。
男はキャリーに気づくと「自分が見えているのか?」と驚き、ガラクタのような装飾品を差し出し「交換」を要求する。キャリーは「今は何も持ってない。後で食べ物をあげるから」と言って逃げる。
男はその背中に向かって、「私はウォルター・ランバート! 息子のジェイミーに伝えてくれ!」と叫ぶ。
キャリーが帰宅すると、ダニエルの捜査担当のマロリー刑事が家を訪れていた。
マロリーとトリシアの親密そうな距離感から、キャリーはトリシアの腹の子の父親がマロリーであることを理解する。
その後キャリーは、男に食料を施そうとトンネルに戻ったが、男の姿は消えていたので、トンネルの入口に置いて帰った。
すると翌朝、玄関先に男が交換の品として差し出そうとしていたガラクタがばら撒かれていた。キャリーはそれを気味悪がり、トンネルに返しに行く。
だが、男はおらず、トンネルの入口に置こうとすると、見知らぬ青年が現れ「そこに物を置くな」と文句を言う。
その青年は、黒いビニール袋をトンネルの入口に置いて帰っていった。
その夜、キャリーのベッドの上に再びガラクタが置かれており、家に誰かが不法侵入したと警察に通報することになる。
これを契機にキャリーは、トンネルに強い興味を抱くようになる。
承
トリシアが出した書類が受理され、ダニエルの“死亡扱い”が正式に決定する。
トリシアとマロリーは結婚を前提とした交際を始めようとするが、その矢先、血まみれでやせ細ったダニエルが家の前に突然現れる。
ダニエルは病院へ運ばれるが、医師からは極度の栄養失調状態で、外傷も多いと診断される。
記憶も曖昧で、7年間の失踪期間中のことを尋ねても、「下にいた(underneath)」など意味深な言葉を漏らすだけで、詳細は何も語らない。
退院後、トリシアとキャリーが家に連れ帰るが、ダニエルは玄関の前でトンネルを見て失禁してしまう。その後も、怯え続けるばかりだった。
ダニエルが戻ったことで、トリシアとマロリーは今後の関係を巡って揉める。
その最中、ダニエルはキャリーの部屋を訪れ、絵本『三びきのやぎのがらがらどん』を広げて(おそらく)トロルの絵を見つめる。
そしてブツブツと独り言のように語り出す。
「こんな見た目じゃない。昆虫に似ている、魚のような銀色の皮。……君はそれと取引した。しなければよかったのに。……それは壁の向こうにいる。……もしかしたら再び消えるかも。」
直後、家のどこかから虫の鳴き声のような不気味な音が響く。暗闇の中を何かが動き回る気配。
やがてダニエルは、巨大な虫めいた怪物に捕まり、家の中から引きずり出される。
キャリーは後を追いトンネルへ向かうが、ダニエルはトンネルの壁の中に完全に引きずり込まれてしまう。
転
キャリーはその一部始終をトリシアやマロリーたちに説明するが、薬物依存の前歴があるため、ダニエル捜索に駆けつけた警官たちを含め、誰も彼女の言葉を信じようとしなかった。
トリシアは、自分とマロリーの関係を知ったダニエルがショックを受け、再び姿を消したのだと考えて深く落ち込む。
キャリーはトンネル周辺で起きた過去の失踪事件をネットで調べ、過去100年にわたり行方不明事件が繰り返されていることを突き止める。
トンネルで出会ったウォルターという男もその一人で、1995年に息子の目の前でトンネルの壁に引き込まれた人物だった。息子ジェイミーは「父は怪物に連れ去られた!」と証言したが誰も信じず、2002年に「不在による死亡」とされていた。
キャリーは、トンネルそのものが“異界への境界”であり、壁の中や地下に潜む何か――触手めいた、あるいは昆虫的な存在が、この世界のものを引きずり込み、時に“何かとの交換”を行っているのではないかと推測する。
キャリーはその情報をトリシアに伝えるが、トリシアは半信半疑だった。
結
少し後、ウォルターの遺体が、トンネルの入口で体を折り曲げられた異様な状態で発見される。
警察が駆けつける騒ぎになり、近所の住民も遠巻きにその様子を見守る。
すると、黒い袋を持って現れた青年が奇声を上げながら死体に駆け寄ろうとして警官に取り押さえられる。
袋の中には、近所で行方不明になっていた犬が入っており、その青年がウォルターの息子ジェイミーであることが判明する。
その夜、ダニエルを攫った怪物が再び現れ、キャリーの目の前でトリシアを攫っていく。
キャリーは、怪物には何らかの“交換のルール”があると考え、自らを犠牲にしてでもトリシアを取り戻そうと覚悟を決める。
1人トンネルに向かったキャリーは、壁の向こうに向かって「交換」を要求する。
壁の中からは何かが動く音と、人間の悲鳴のような音がいくつも響く。
やがてキャリーの足元に小さな肉片のようなもの(トリシアの胎児?)が出現する。
キャリーは交換の失敗を悟り、絶望の表情でトンネルから逃げ出そうとするが、出口目前で怪物に捕まり、壁の中へと引きずり込まれる。
キャリーの片方の靴だけが、トンネルの外へ転がり出た。
感想・レビュー
原題と邦題の乖離問題
この邦題「人喰いトンネル」という映画の存在を知ったとき、「これは無機物が人間を食べる系の血まみれグチャグチャ祭りのB級ホラーか?」と期待しました。
しかし、内容はまったく違い、超自然系の低予算スリラーで拍子抜け。
原題の「Absentia」は「不在」を意味します。人喰いの要素はどこにもありません。
人を壁の中に引きずり込む怪異の棲家が“トンネル”であるため、「人喰いトンネル」という邦題にしたのかもしれませんが、釣りタイトル感は否めません。
少なくとも、私はしっかり釣られました。
内容は期待外れだったが、普通に面白かった
B級の血まみれ無機物人喰いホラーではありませんでしたが、かといって駄作でもありません。
自宅のすぐ近くに異空間との接点があり、トンネルの壁1枚を隔てた向こうに得体の知れない怪異が潜んでいる――という設定は、低予算で怪物の姿がほとんど映らないにも関わらず非常に魅力的でした。
超自然的で奇妙なスリラーも私は好きなので、この映画は決して外れではありません。ただ、「求めていたのはこれじゃない感」は残りました。
ただ、意味不明な部分は意味不明なままで終わる映画
最後まで見ても、怪異の正体も“交換”のはっきりしたルールも明かされません。
ウォルターの息子ジェイミーが犬を置いた理由、ウォルターが遺体となって現れた理由など、謎は謎のまま。
謎が謎を呼び、視聴者を引き込みながらも、最終的には釈然としない余韻だけが残る――実に“謎な映画”です。
とはいえ、その奇妙な後味は強く印象に残ります。
なんというか、伊藤潤二の短編ホラー漫画のような超自然展開の映画でした。
あるいは、「ジョジョの奇妙な冒険」第4部の杜王町にも、こういうトンネルが普通にありそうだな、と思いました。
ただ、監督・脚本のマイク・フラナガンは、スティーブン・キングの作品を意識しているようです。
都市伝説の地底人的な怪異
アメリカの都市伝説で“地底人”は、人間を拉致したり、テレパシーで影響を及ぼす存在として語られることがあります。
この映画を観ながら、その辺の要素をネタにしているのかもしれないと感じました。
オカルト好きとしては、「地底人(Deros/デロ)」的な怪異が登場するこの映画は、意味不明な部分が多いながらも十分に楽しめました。
ウォルター役のダグ・ジョーンズのガリガリが凄い
ウォルターを演じたアメリカの俳優ダグ・ジョーンズの“ガリガリっぷり”がすごい。
もともと細身でホラー映画の常連俳優ですが、本作では特殊メイクなしで、地面に転がっているだけで“本物の死体”のように見えます。
ダグ・ジョーンズの登場シーンは、この映画の中で一番の見どころかもしれません。
まとめ:この映画はB級血まみれホラーファンより、スリラー向けの作品
この映画は、邦題づけの方向性が完全に間違っていると思います。
B級ホラーを想起させるよりも、超自然スリラーが好きな人向けの、不穏で静かなホラー作品として売り出すべきでした。
残念ながら現在Amazonプライム・ビデオでの配信はないようですが、レンタルで見かけたらぜひ手に取ってみてください。
作品の基本情報
| タイトル | 人喰いトンネル Maneatr Tunnel/(原題:Absentia) |
|---|---|
| 公開年/国 | 2010年(制作)・2011年(公開)/アメリカ |
| 監督・脚本 | マイク・フラナガン |
| キャスト | ケイティ・パーカー/コートニー・ベル/デイヴ・レヴィン/モーガン・ピーター・ブラウン/ジャスティン・ゴードン/ジェームズ・フラナガン/スコット・グレアム ほか |
| 上映時間 | 91分 |
| ジャンル | 超自然ホラー・スリラー |
| 視聴環境 | 国内版映像ソフト(DVD) |

