ザ・レゾネーター:ミスカトニックU(The Resonator Miskatonic U)鑑賞レビュー

クトゥルフ神話大系

主な登場人物・キャスト(ネタバレ含む)

  • クロフォード・ティリンガスト(演:デイン・オリバー)
     主人公。亡き父の設計した共鳴装置を組み立てる学生。
  • ブライアン(演:トム・シェベラ):
     クロフォードの助手的存在。冒頭で即死。
  • ウォレス教授(演:マイケル・パレ):
     共鳴装置を利用して神を目指す男。
  • ブランドン/ベア/キャリー(演:アマンダ・ジョーンズ):
     クロフォードの友人。
  • マラ・エステバン演:クリスティーナ・エレーヌ・ブラー):
     クロフォードの恋人。
  • ハーバート・ウェスト(演:ジョシュ・コール):
     ラストでブライアンの友人としてカメオ的に登場する。別宇宙での活躍を参考にするに、大量のゾンバイオに囲まれようが、神話生物に遭遇しようが、何が起ころうとも自分だけはきっちり生き残る不死身の男。
  • カソグラ(演:ハナー・ヒューストン):
     共鳴装置によって呼び出された神性。作中では「Kathogra」と表記されているが、おそらくクトゥルフ神話に登場する旧支配者「Kassogtha」のことと思われる。クトゥルフの姉妹にして妻であり、見た目は頭に烏賊を被った女性として描かれている。
  • フィリップ・ティリンガスト(演:ジェフリー・バイロン):
     クロフォードの父親。共鳴装置の設計者。すでに故人。

 注意:人物紹介には著者の憶測が含まれています。


あらすじ(ネタバレあり)

 ミスカトニック大学の学生、クロフォード・ティリンガストは、異次元や並行宇宙の存在を信じている。亡き父が残した資料を頼りに、友人ブライアンの協力を得て、人間の感覚器官(松果体)に働きかける共鳴波を発生させ、超感覚を強制的に覚醒し、異次元へのポータルを開く共鳴装置を巧みに作り上げる。
 しかし、完成した装置の初稼働テストで、異次元から出現した怪物に背後から襲われ、ブライアンは頭部を破壊されて死亡してしまう。

 ブライアンの死を隠蔽したクロフォードは、今度は友人たちや恋人のマラの助けを借りて、実験を再開する。人間の感覚器官を刺激する副作用により、この共鳴装置の共鳴波を浴びた人間はエロティックな気持ちにさせられてしまい、皆その快楽に魅了されていく。
 しかし、旧支配者カソグラを筆頭に、共鳴装置を使って次元を越えようとする神話生物たちに襲われ、事態は急変。参加者たちはたちまち恐怖に見舞われる。
 一人がショットガンをぶっ放して装置を停止させ、なんとか事態を収束させる。

 装置の危険性をさすがに理解したクロフォードは、解体を決意するが、その前に大学のウォレス教授が現れ、脅迫されて実験を続けるよう迫られる。ウォレス教授は、かつて共鳴装置を操るためにクロフォードの父親を殺害したことを告白し、装置を使って神のような力を手に入れようとする。

 共鳴装置を再び動作させると、共鳴波を受けたウォレス教授は、神というよりも「ヘル・レイザー」の魔道士のような、頭部が肥大化し、眼のない人外の姿へと変貌する。
 そこでクロフォード、その友人たち、そして異次元から現れた父親の霊が、ウォレス教授の企みを阻止する。再びショットガンをぶっ放すことで装置は爆発し、クロフォードは並行世界の、まだ実験を行っていない新たな現実へと移動する。

 ラストシーンでは、物語冒頭での死がリセットされたブライアンが登場し、友人であるハーバート・ウェストをクロフォードたちに紹介する。


感想・レビュー

実質、スチュアート・ゴードンのラヴクラフト映画のリメイク版

 本作は、H・P・ラヴクラフト原作の「彼方より(From Beyond)」「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」をスチュアート・ゴードン監督が実写化した『フロム・ビヨンド(1986)』『ZOMBIO 死霊のしたたり(1985)』のリメイク版です。

 冒頭には以下のテロップが表示されます。

スチュアート・ゴードンに捧ぐ。
アーティスト。夢想家。物語の語り手。
伝説は決して死なない。

 この一文からも、リスペクトの度合いが伝わってきます。
 ラヴクラフト作品や80年代ホラーのファンにはたまらない演出でしょう。


配信状況と鑑賞環境

 この映画の存在を知ったとき、「ZOMBIO 死霊のしたたり」が好きな私は、これはぜひ見たいと思いました。
 ところが、この作品はアメリカのAmazonプライム・ビデオでは配信されているものの、日本では未配信(2025年現在)。
 しかし幸い、YouTubeで配信されていたので、英語字幕で視聴しました。
 正直、英語字幕はかなりしんどいので、日本でも早期に配信されることを切に願いたいところです。


舞台はミスカトニック大学だが、メインは廃倉庫

 舞台は、クトゥルフ神話ファンにはおなじみのマサチューセッツ州アーカムにあるミスカトニック大学。幻想的で奇怪な出来事が起こる名門校です。
 「死霊のしたたり(1985)」では、ウエストが死体蘇生薬の臨床試験によって発生させたゾンバイオ(活きている死体)が大学内に溢れました。今回のリメイク版では、このあたりがどう描かれるのか楽しみでした。

 ……が、低予算ゆえに舞台はほぼ廃倉庫。大学キャンパスでの描写はほとんどありません。


怪物やゴア表現はCG中心でチープ

 旧作の「フロム・ビヨンド(1986)」では、気合の入った特殊造形によって、共鳴装置の影響で汁気たっぷりにヌメヌメ・グチョグチョと化け物化する科学者や、家の中に出現するモンゴリアンデスワーム的クリーチャーが登場し、素晴らしい出来でした。
 一方、今作ではそのあたりは大半がチープなCGで表現されています。冒頭、ブライアンが触手に巻き付かれて頭部を潰されるシーンもCG、噴き出る血もCGです。

 ちなみに、異次元怪物の出現や、頭部を失ってブライアンが死亡する場面は、クトゥルフTRPGであれば正気度チェックが入り、SAN値減少間違いなしのシーン。しかしクロフォードは割と平然と受け止めていました。
 この手の場面も、金のかかっていないCGだとグロさが薄く、SAN値減少はしないようです。

 もちろん、金のかかったVFX(視覚効果)ならまた別ですが、低予算作品なら、むしろ80年代のSFX(特殊効果)の方が、ベチャベチャした汚らしさがあって見応えがあります。

 ただし、共鳴装置を作動させることで異次元から現れる、非CGのゴキブリやダンゴムシのようなクリーチャーの造形は、怖くはないもののコミカルで楽しかったです。
 また、ホルマリン漬けの心臓が共鳴装置の影響で変な生き物に変化して走り回り、クロフォードの手に噛みつき、噛み返されて倒されるシーンは個人的に高評価でした。


クロフォードとハーバート・ウェストの共演は熱い!

 旧作では両者を同じ俳優(ジェフリー・コムズ)が演じていましたが、今作では別キャストとなり、ついに共演が実現。これは嬉しいファンサービスです。

 ジョシュ・コール演じるハーバート・ウェストは、見た目や雰囲気をジェフリー・コムズ版に非常に寄せてあり、「この監督、よくわかってるな」と思わずニヤリとさせられる粋な演出でした。

 ちなみに旧作のクロフォード・ティリンガストは、モンゴリアンデスワーム的なクリーチャーに食べられたあとハゲになり、さらに額から松果体が触覚のようにニョキンと飛び出して変な姿になり、無意識に病理標本の人肉を食べ始めるなど、散々な目に遭います。
 しかし今作では、そのような描写はありませんでした。


旧支配者カソグラがライダー怪人レベル

 共鳴装置の影響で、ジョゼフ・S・パルヴァー著『Nightmare’s Disciple』初出の神性、旧支配者カソグラが異次元から現世に出現します。
 その姿は、烏賊を頭に被った裸の女性。別に悪くはないのですが、「クトゥルフの姉妹にして妻」という設定のカソグラが実写化されるとこうなるのか……と、驚きとも呆れともつかない、何とも言えない感慨を覚えました。


まとめ:なんのかんの、けっこう面白い

 上映時間68分という短さもあって中だるみもなく、テンポ良く進みます。
 低予算ながらもクトゥルフ神話要素はしっかり盛り込まれており、80年代ホラーへのリスペクトにもあふれた作品。原作・旧作ファンなら十分に楽しめる内容でした。
 日本語字幕版の配信を強く望みます。


続編情報

 本作は全3部作の第1作。第2作『BEYOND THE RESONATOR』では「死霊のしたたり」パートに突入し、ハーバート・ウェストが本格的に活躍する模様。配信状況次第ですが、続編にも期待です!


作品の基本情報

タイトルザ・レゾネーター:ミスカトニックU(原題:The Resonator Miskatonic U
公開年/製作国2021年/アメリカ
監督・脚本ウィリアム・バトラー
キャストアマンダ・ワイス/マイケル・パレ/アマンダ・ジョーンズ/クリスティーナ・エレーヌ・ブラー/デイン・オリバー ほか
上映時間68分
ジャンルホラー・SF・ファンタジー
視聴環境Web配信(英語字幕)

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